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豊橋市美術博物館 元主任学芸員 大野俊治 氏

   ■学芸員のつぶやき「アートに秘められたパワー」(3)
   ■学芸員のつぶやき「アートに秘められたパワー」(2)
   ■学芸員のつぶやき「アートに秘められたパワー」(1)

学芸員のつぶやき「アートに秘められたパワー」(3)

 いよいよ、2012年の1月から2月にかけて、[あいちトリエンナーレ地域展開事業・あいちアートプログラム]のメイン事業として、「現代美術展inとよはし」が開催されますが、大村愛知県知事が提唱する東三河県庁しかり、芸術面においても豊橋を中心とするこのエリアが注目され、盛り上がりをみせようとしています。

 それでは、ここで具体的な展示内容を紹介したいと思います。

 まず導入部であり、街の玄関口でもある駅前南口広場(渥美線「豊橋駅」改札口前の広場)には、豊橋在住の彫刻家・澤田榮三が《OPEN GARDEN―野菜の饗宴―》と題し、巨大なソラマメをベッド、青梗菜をテーブル、茄子をチェア、南瓜と玉葱を合体させてスタンドにそれぞれ見立て、ホテルの一室を青空のもとに再現します。(註:これらの作品は頑丈につくられていて、触ったり、寝そべったりしても平気です。)

 名豊ビル6階の名豊ギャラリーでは、杉森順子《Tempus Fugit―時は飛ぶように速く―》とタン・ルイ《Bobby and I in TOYOHASHI》の映像を使ったインスタレーションが行われ、5階のイベントホールでは、石川理の音を発する木製の"ログドラム"と木彫りのオブジェで空間を埋め尽くすほか、壁面や柱には100点にも及ぶモノクロームのドローイングを貼り巡らし《音の杜―MORI―》を演出します。

 呉服町のギャラリー48は、夫婦でもある杉山健司と浅田泰子のコラボレーション《Who is Inside?―わたしは誰ですか―》で、展示された人物(私)が、誰なのかを鑑賞者が推理する内容となっています。

 昭和6年竣工の歴史的建造物である豊橋市公会堂の広場と階段上の踊り場には、増田洋美の《PLAY THE GLASS soave―かげろう》《PLAY THE GLASS allegramente―楽しく》と題した2種類のガラスによるインスタレーションが展開し、豊橋公園の芝生の上には村田弘志の《ダヴィンチ・ドーム》と称するオレンジ色に輝く円形ドームが出現。豊橋市美術博物館では、公園内の歴史を刻んだ石を集めて、館を貫くイメージでレイアウトされた味岡伸太郎の《Straight Line あるいは線庭》が登場します。

 また、愛知大学の登録文化財・大学記念館の東ウィングを使った写真によるインスタレーション・山本昌男《ナカゾラ、そして、川》が催され、西ウィングの記念センター講義室では渡辺英司による《バリエーションズ豊な橋》のひとつとして、図鑑によるインスタレーションが展開されるほか、豊橋丸栄9階イベントスペースでは、興味深い複数のインスタレーションが予定されています。

 さらに、現代アートの展示だけでなく、会期中に開かれる子供を対象にしたワークショップも充実しています。ココニコ(こども未来館)では、加藤訓子による「ログドラム・アンサンブル・リズムワークショップ」のほか、杉山健司&浅田泰子による「誰の部屋?どこの街?」やタン・ルイによる「夢の生き物を作る」というアート系ワークショップを行います。また、名豊ビル5階のイベントホールでは、和太鼓集団・志多らのメンバーやスティールパン奏者・松井奈都子とパーカッショニスト・牧原亮介、安城のビッグ・ラバーズ・オーケストラのメンバーと舞踏家・二足歩行クララによるミュージック系ワークショップなど多彩に繰り広げられます。

   カテゴリーやジャンルを超え、異なる環境や空間とコラボするアートの世界。
   豊橋のまちなかをアートで飾ります。
   街と人と作品が一体となって、溶けあいながら響きあう。
   合言葉は――トケコマン?トケコミン!

 あなたも是非、体感してみてください。
 アートのパワーで、豊橋の街が変わるかもしれません。

 「現代美術展inとよはし」のポスター(PDF)はこちら。

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学芸員のつぶやき「アートに秘められたパワー」(2)

 「あいちトリエンナーレ2010」が、2010年8月から10月にかけて名古屋の三会場(愛知芸術文化センター、名古屋市美術館、長者町界隈)を中心に繰り広げられました。前神田知事提唱のもと、"アートが未来を拓く"をスローガンに愛知県挙げてのプロジェクトとして開催されました。東海地方では、スケールの大きさ・内容ともに前例のない画期的なもので、都市型のアートイベントとして尾張地区を中心に盛り上がりました。

 実施報告書によると、参加アーティストは24カ国・131組、57万人を越える来場者、経済波及効果は78億円、パブリシティ効果は47億円以上など、様々な数字を並べて行政効果が示され、その成功をアピールしています。数字だけではなく、この事業が、どれだけ多くの県民に人生観を変えるような感銘を与え、どれだけ人々の心に浸透したのか、その深度は測りしれません。

 現代アートに関心を寄せる三河地区の友人達も、盛大に開かれたこの名古屋発のお祭りを体感し、その興奮を私に伝えてくれました。しかし、そのすばらしさをいくら言葉で表現しても一般的に反応は鈍く、対岸の出来事を眺めるような状況でした。残念ながら、どんなに素敵なアートが提示されていても、遠くにいては感じることもできないし、その場にいてもアートを理解する感度の良いアンテナが備わっていなければ何の意味も効果もありません。

 昨秋のことになりますが、「あいちトリエンナーレ地域展開事業として位置づけたアートプログラムのメイン事業として、現代美術展を豊橋で開催したい。ついてはキュレーションをお願いできないか。」との打診がありました。「豊橋で現代美術展?!」…長閑(のどか)なわが町で果たして成立するのか…はなはだ疑問でしたが、石を投げなければ澱んだ池の水は動きません。「どのような波紋が起きるのか?もしかしたらアートが町を変えるかもしれない!」そんな好奇心と淡い期待をいだきながら、引き受けることにしました。

 まず、アートを町中にさりげなく置いて溶け込ませ、相乗効果を狙う作戦を企てました。見慣れた景色や建物も目新しいアートを配置することでインスパイアされ、その良さが際立つのではないかと考えたからです。"コラボレーション"をひとつのキーワードに、既成のカテゴリーやジャンルを超えて新たな可能性を探求するアーティストを登用しながら、展覧会全体を構成しました。

 2012年1月中旬から2月中旬にかけて、あなたのすぐそばで個性的な10組のアーティストによる今までご覧になったことがないような作品群が出現し、町ぐるみのスケールで体感することができます。勿論、多彩なワークショップも盛り込んでいます。豊橋発の実験的な試み。こんなチャンスは滅多にありません。是非、実際に足を運んで体感してみてください。至近距離で触れ合えば、アートに対する価値観が変るかもしれません。

 合言葉は三河弁で「トケコマン?トケコミン!」(訳:溶け込みませんか。溶け込みなさいな。)

 詳しい内容については、次回のつぶやきで…。

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学芸員のつぶやき「アートに秘められたパワー」(1)

 最近私は、アートにはどんな力があるのか、どれだけ人々の役に立てるのかということを自問自答しています。未曾有の大災害により尊い命が奪われた2011.3.11以降、その想いはさらに強くなっています。ここでは、実際の活動などを紹介しながら、アートに秘められたパワーやその可能性について、つぶやいてみたいと思います。

 芸大後輩の紹介で、2002年の第4回から参加している文化イベントに「〜町並みと美の晴れ舞台〜遠州・横須賀街道ちっちゃな文化展」があります。その会場は、遠州灘に沿って弓なりに走る国道150号線、天竜川河口と浜岡原発問題を抱える御前崎を結ぶほぼ中間地点を2kmほど北上した掛川市大須賀町、かつて"横須賀街道"と呼ばれた古い城下町です。「巴」「とんがり」「べかっこう」といった横須賀凧で有名なこの町で、民間主導で立ち上げた"美の祭典"が繰り広げられます。東西2kmに及ぶ旧街道一帯の町屋を開放して、そこに全国各地から集まった作家達が思い思いの作品を展示するというスケールの大きな展覧会です。

 絵画や立体造形などファイン・アート、陶磁器や染織やガラスなど工芸、イラスト、映像、インスタレーション、詩、アクセサリーに至るまで、そのジャンルは多岐にわたり、パフォーマンスやコンサートも開かれるほか、この地域に伝承される山車の引き回しも行われます。

 第13回(2011年10月21日〜23日)を迎える今年は、74箇所に全国から選ばれた100余名の作家達の作品が一堂に展示されるほか、町の名人達の技もブースが設けられ、紹介されるようです。毎年街道を訪れるギャラリーも半端な人数ではなく、3日間の人口は一気に膨れ上がります。とても"ちっちゃな文化展"どころの騒ぎではありませんが、22日土曜日は、夜9時まで開かれるため、暗闇の中に灯りが点って独特な風情を醸し出し、古い町並みと現代アートのコラボレーションをじっくりと楽しんでいただける趣向となっています。

 回を重ねるごとに盛り上がりをみせるこのイベントの原動力は、朽ちていく古い町並みを憂い、何とか面影を残そうと考えた運営母体である『横須賀倶楽部』メンバーの強い意志と団結力です。それぞれが明確な共通認識と使命感をもって率先して体を動かし奉仕していること、そして何よりも熱いハートで真剣に取り組み、楽しんでいることです。自分たちの町をより良くしたいと願う純粋な志が、町民たちの心を動かし、全幅の信頼と賛同を集める要因となっています。現在も彼らの手によって、着々と朽ちかけた建物の修繕が行われ、昔の町並みが甦りつつあります。その地道な活動に対して頭がさがるのと同時に、継続は力であることを実感させられます。

追記
 筆者のブースは、街道の真ん中にある『八百甚』です。不気味な作品が、宮崎映画「千と千尋の神隠し」に登場する温泉旅館『油屋』を彷彿とさせる重厚な旅籠と、どんなコラボをみせるのか。皆さん、覗きにきてくださいね。

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